Saturday, December 7, 2013

Carl-Zeiss LSM 710 共焦点レーザ走査型顕微鏡

ゲノム研究分野 共同利用機器紹介-(5)

顕微鏡界のBMW, Carl-Zeissがつくった名機 LSM710



「みんないい車がよければBMWを選ぶだろ。それと同じで顕微鏡ならZeissにするんだよ。」

これは以前僕が所属していた研究室の教授(ドイツ人)が顕微鏡の選定にあたって他社製の顕微鏡を押す研究室のメンバーに対して放った一言でした。予算を獲得してきたのは彼だったこともあり、この一言で結論が出てその時は本装置の姉妹機であるLSM700という顕微鏡を購入することになりました。LSM700, 710共に基本となる構造は同じであるため操作性や得られる画像の綺麗さも一緒です。僕は2年前に岐阜大学に来てLSM710を使い始めたのでかれこれ5年以上Zeiss社製の共焦点レーザー顕微鏡を使っていることになります。その前はBio-Rad社やOlympus社のものを使ったことが有りました。

装置を長く使っているとその設計にメーカーの設計思想(ポリシー)が垣間見えることが有ります。本装置は決して操作が簡単な装置ではありませんし、コンピューター上の操作用ソフトウェアも直感的に使えるようにはできていません。しかしながら装置の堅牢性と顕微鏡の本質である画像の麗美さを追求する姿勢が本装置からはビシビシと感じられます。BMWが堅牢で車の本質である早くて快適な走りを追求するのと似ている気がします(残念ながらBMWを所有したことはありませんが。)。両方ともにドイツのメーカーであることを考えるとドイツ人気質があふれる製品なのかもしれません。

余談から入りましたが、本装置は本当にきれいな画像を取得してくれます。これは装置に使われる対物レンズの性能と蛍光検出器である光電子増倍管[Photo(electron) Multiplier Tube, PMT]の性能に起因します。Zeiss 社はいずれも自社で設計、制作しているそうです。当研究室の本装置に付いているこれらの部品は現在のところ最高レベルの部品であり、サンプルから発せられる蛍光を高い感度で検出してくれます。

共焦点レーザ走査型顕微鏡は蛍光染色した細胞や組織サンプルの観察と撮影を行う装置です。普通の蛍光顕微鏡とどこが違うのでしょうか。通常の蛍光顕微鏡は対物レンズを通してサンプルに光源からの光が当り、励起された蛍光色素からの光を観察します。対物レンズの焦点はサンプルの一点(狭い範囲の一平面)にしか収束していませんが、実際には光源からの光は焦点より前や後ろの構造にも当たるためそれらの部分にある蛍光色素も蛍光を発してしまいます。更にそれらの光は乱反射をしながら観察者の眼に入るため実際には焦点面以外のかなり広い領域からの光を同時に観察してしまう事になり多かれ少なかれぼやけた観察像になってしまいます。

本装置ではこれらの問題を主に2つの機構により解消しています。ひとつはレーザー光源の使用です。特定の波長のレーザー光源は目的とする蛍光抗体のみを光らせるため他の蛍光抗体からの余計な光の混入がありません。またレーザー光は位相が揃っていて光が散乱しないためスポット状にサンプルに光を与えることができます。もう1つは共焦点光学系です。これは対物レンズの焦点位置と連動する小さいピンホールを検出器の前に置き、焦点面以外から発せられた光をピンホールによりカットし、焦点面から出た光のみをピンホールを通過させ検出することでぼやけのない観察像を得る仕組みです。

細胞培養装置。青い線は二酸化炭素ボンベにつながっている。


本装置は倒立顕微鏡を使ったシステム構成となっているためスライドグラスに用意したサンプルはカバーグラスをかぶせ、カバーグラスの方を下にしてセットする必要があります。一方で細胞は培養容器(シャーレ)に入れたまま底から光を当てて観察することができます。高倍率で観察するためにはシャーレの底は薄いガラス製(カバーグラスと同じ厚みくらい)の必要があります。いわゆるグラスボトムディッシュです。6cmと3.5cm径のシャーレに対応しています。通常は固定して蛍光抗体で染色したサンプルを観察しますが、生きた細胞をシャーレで培養しながら GFP(緑色蛍光タンパク)などの蛍光を観察することもできます。温度管理と二酸化炭素濃度管理ができる装置(本装置に接続されています)を合わせて使うことで細胞を培養しながら生きたままの細胞を長時間観察することも可能です。例えば10分間隔で10時間撮影してあとで早回しのムービーにもできます(Zeissによると最大24時間くらいまでは細胞に影響なく観察できるそうです)。

操作画面。


顕微鏡の操作と装置の設定、撮影はコンピューター画面上ですべて行うことができます(顕微鏡の操作自体は付属のコントローラーでも可能です)。ZENというソフトウェアが全てを管理します。このソフトウェア、一度使ってみるとわかりますが画面上に設定項目が多くて最初のうちはどうすればよいのかなかなかわかりません。以前のZeissの顕微鏡は別のソフトウェアを使っていてそちらはそれなりにとっかかりやすい作りだったのでなぜこんなに分かりにくくしたのかと始めのうちは残念に思っていました。し かし操作に慣れた今となってはいろいろな設定を変えて測定できるのは良い画像を得るためには都合が良いと思えるようになりました。この辺りにも『追求すればするほどよい物が得られるが、敷居は高い。ついてこられるものだけついてこい。』という設計思想が見えているような気がします(違ったらすみません、Zeissさん)。

まあとにかく抜群の画像が得られることだけは間違いありません。僕はこの装置がゲノム研究分野で管理している装置の中で一番好きです。共焦点レーザー走査型顕微鏡で撮影した画像は一発で見た人を納得させるだけの綺麗さと説得力を持っています。「研究はアートだ。」という人がいます。その意味合いは人それぞれなのですが、本装置で撮影した写真は間違いなくアートだと言えます。論文の中で長々と説明を繰り返すよりも、一枚の写真が全てを説明してしまいます。本装置は同種の製品の中でも最高クラスの性能を持っています。この装置を使わない手はありません。本装置に馴染みのない方にはゲノム研究分野が使い方の説明をいたします。ぜひとも本装置をおつかいいただき、論文中にアートとなる1枚を飾ってください。お待ちしています。

設置場所:ゲノム研究棟 4階 402号室

利用料金:1000円/1使用

詳しくはゲノム研究分野 管理室まで (内線 3174、Eメール mgrc@gifu-u.ac.jp)     

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